ヒトパピローマウイルス(human papillomavi-rus, HPV)ワクチンにより子宮頸癌が減ることが2020年のN Engl J Med誌において初めて報告された。また,2019年のLancet誌に報告されたメタ解析では,HPVワクチンは尖圭コンジローマの発症リスクを低下させる。気管食道科学におけるHPV関連疾患といえば再発性呼吸器乳頭腫症(re-current respiratory papillomatosis, RRP)が代表的であるが,HPVワクチンはRRPも予防するのだろうか。このシンプルな疑問への,プレリミナリーではあるが,答えとなりうるのが本論文である。結果を示す図はわずかに1つの小さな論文だが,そのインパクトは大きい。 米国では4価HPVワクチンが2006年に,9価HPVワクチンが2015年に導入された。現在は11〜12歳の児童は定期接種,26歳まではキャッチアップ接種が勧められ,さらに45歳まで接種が可能である。ワクチン接種により,他の報告と同様,子宮頸部のHPV感染,尖圭コンジローマや子宮頸部の前癌病変の減少が示されてきた。 本論文では,米国の23の州における26の高度医療施設の小児耳鼻咽喉科での,2003年から2013年までに出生した児に生じた若年型RRPの576例を対象としている。男女比は51対49,診断時の年齢の中央値は3.4歳であり,4歳までに56%の症例が診断されていた。576例のうち,165例は2004年から2005年の2年間に出生した児であり,167例は2006年から2007年の2年間に,123例は2008年から2009年の2年間に,85例は2010年から2011年の2年間に,36例は2012年から2013年の2年間に出生した児であった。過小評価の可能性は否めないが米国全体の出生データをもとにした10万出産あたりの若年型RRPの発生率は,2年間ごとに同様に,2.0, 1.9, 1.5, 1.1, 0.5であった。また,過大日気食会報,73(3),2022 1) Novakovic D, et al:A prospective study of the incidence of juvenile-onset recurrent respiratory papillomatosis after implementation of a national HPV vaccination program. J Infect Dis 217:208─212, 2018.258評価の可能性は否めないが州レベルでの出生データをもとにした10万出産あたりの若年型RRPの発生率は,2年間ごとに同様に,2.9, 2.8, 2.1, 1.5, 0.7であった。2004年から2005年の2年間に出生した児は母のワクチン接種が開始される前の期間にあたり,2006年から2007年の2年間に出生した児も母がその妊娠前にほとんどワクチン接種を受けていない状況であることを考慮すると,10年間での若年型RRPの減少はワクチン接種によるものと言える。 本論文に並列すべきものとして,簡単な紹介となるが,Novakovicらの報告も興味深い1)。オーストラリアでは12歳から26歳の女性を対象とした4価ワクチン接種国家プログラムが2007年に導入された。若年型RRPの発症率は人口10万人あたり2012年では0.16であったが,その後徐々に低下し,2016年には0.02であった(p=0.034)。5年間の若年型RRPは15例であるが,いずれの母親も,後にRRPを発症した児の出産以前にワクチンを接種していないことも特記すべきことである。また,このNovakovicらの報告は本論文に先行する2018年のもので,HPVワクチンによるRRPの減少を世界で初めて示した点でも意義深い。 日本ではこの2022年4月より,9年弱もの間差し控えられていたHPVワクチン接種の積極的勧奨が再開された。RRPをめぐる動向も変化してくる可能性がある。文 献(福島県立医科大学耳鼻咽喉科 室野重之)題 名: Significant Declines in Juvenile-onset Recurrent Respiratory Papilloma-tosis Following Human Papillomavirus (HPV) Vaccine Introduction in the United States著者名:Meites, E., Stone, L., Amiling, R., et al.誌 名: Clinical Infectious Diseases 73:885─890, 2021外国文献紹介(抄録)外国文献紹介(抄録)
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