ab図3 切除検体a:外径5.5 mmの気管チューブは声門下を通過しなかった.b:気管内腔に露出する腫瘍(矢頭)を認めた.表1 V-A ECMOとV-V ECMOの特徴は静脈■刺のみで導入可能であり,順行性の送血であるため循環動態への影響が少ないといった利点がある。しかし,脱血管と送血管の間で回路内循環を生じやすいこと,全体的な酸素化効率はV-A ECMOより劣るという欠点がある10)。一方V-A ECMOも動脈■刺を要すること,また回路の維持のためにV-V ECMOより多くの抗凝固薬が必要となることで出血のリスクがあること,さらに補助循環である特性上,自己心拍による酸素化不良な血流と送血管からの酸素化良好な血流が干渉するmix-ing zoneがどの部位に形成されるか,特に脳血流循環が自己心拍かV-A ECMOかそのどちらに依存するのかに留意しなければならないといった欠点がある(表1)。現状においてはECMOの導入,V-A ECMOとV-V ECMOの選択について,明確な適応基準はなく,予防的に使用するのか待機的準備とするのかは各施設での判断に委ねられている11)。 ここで本症例のような気管浸潤を伴う悪性腫瘍症例に対するECMOの使用に関して文献的に考察す日気食会報,73(3),2022脱血部位送血部位PaO2循環補助Mixing zone形成による部分的な酸素飽和度低下脳血流循環V-A ECMO大■静脈,内頸静脈,右房大■動脈,鎖骨下動脈60〜150 mmHg50〜100%254る。一般的に自発呼吸下では吸気時に胸腔内が陰圧になることで気道が拡張し,吸気に伴う胸郭の前方運動により気管前方からの圧迫が軽減することで気道の断面積は大きくなるとされている1)。しかし経口挿管による全身麻酔導入時は自発呼吸を消失させ陽圧呼吸下で管理するため,上記機序は働かない1)。さらに気管浸潤を伴う悪性腫瘍症例であれば腫瘍自体による気管拡張の妨げ,腫瘍浸潤による気管の可動性低下12),狭窄も考慮され,そのような症例に対して全身麻酔を導入することは呼吸状態を一段と増悪させるリスクを伴っていると考えられる。事実,文献的には気管または気管支が正常径の50%未満となっている症例では,全身麻酔手術後の重篤な気道合併症の発生率が7倍になるという報告13),そのような症例においてECMOの使用を推奨する報告14)もみられている。したがって,画像所見より悪性腫瘍が疑われ,さらに50%以上の気道狭窄を認める症例においてはECMO導入を積極的に検討する必要があると考えられる。一方,甲状腺良性腫瘍におV-V ECMO大■静脈内頸静脈45〜80 mmHg不可能影響なし
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