a図2 喉頭内視鏡所見a:著明な声門下狭窄を認めた.声帯可動性は保たれていた.b:気管内腔に出血を伴う腫瘍の突出(矢頭)を認めた.III.考 察時間後に手術室入室となった。はじめに心臓血管外科医がデクスメデトミジン鎮静下で右大■動脈および右大■静脈を露出した。麻酔科医により気管支ファイバースコープ下で経鼻挿管を試みられたが,咽頭反射が強い上に腫瘍が易出血性であり,内径5.5 mmの気管チューブが気管狭窄部を通過しなかった。挿管を試みてから14分経過した時点で断念し,ECMOを導入する方針とした。フェイスマスク換気を継続しつつ,ヘパリンを投与し,活性化凝固時間(activated clotting time:ACT)が224秒に延長していることを確認した。心臓血管外科医により,右大■静脈より24Frの脱血カニューレ,右大■動脈より20Frの送血カニューレを挿入し,ECMO導入決定後23分でECMOを開始し,プロポフォールが投与された。血中酸素飽和度が安定したことを確認し,外科的気管切開術に取り掛かったのはECMO開始26分後であった。可動性不良の硬い腫瘍が気管前面を広く覆っていたが,腫瘍を用手的に上方に強く牽引したところ第5─6気管輪が明視でき,同部で下気管切開を施行した。挿入した気管チューブを全身麻酔器に接続し,換気が安定した段階でECMOを離脱することとした。ヘパリンの抗凝固作用を中和する目的でプロタミン硫酸塩を投与し,ACTが121秒と短縮したことを確認し,定型通り傍気管郭清を含む甲状腺全摘および喉頭全摘術を行った。定時時間外での手術のため,術中迅速病理診断を行うことはできなかった。手術時間6時間32分,出血量146 ml,体外循環施行時間1時間9分であった。摘出した喉頭を観察したところ,輪253状甲状靭帯は膨隆した腫瘤で置換されており,外径5.5 mmの気管チューブを声門下に通過させることはできなかった(図3a)。術後経過:病理組織学的所見は甲状腺低分化癌であり,披裂軟骨,輪状軟骨,気管軟骨に浸潤し,一部気管内腔に露出する像がみられた(図3b)。術後経過は良好で,術後27日で退院となった。肉眼所見では摘出し得たと判断していた尾側前方で切除断端陽性であったため,術後3カ月で放射性ヨウ素内用療法を施行したが,術後6カ月で局所再発を認めた。術後7カ月にレンバチニブを導入し,現在も外来でレンバチニブ内服を継続している。 甲状腺癌は気管浸潤をきたすことで腫瘍による気道狭窄や気管挿管時の腫瘍出血が問題となり,気道確保には慎重を要する1)。このような症例に対しては意識下挿管,ラリンジアルマスク,HFJV等の方法が考慮されるが1),近年ECMOを用いて気道確保を行う報告が散見されている2〜8)。本症例で用いたV-A ECMOは静脈脱血かつ動脈送血による体外循環を可能とする9)。経皮的心肺補助装置(percuta-neous cardiopulmonary support:PCPS)とも呼ばれ,通常の治療に反応しない急性循環不全や心肺停止症例に対して主に救急医療の現場で使用されるが,手術室での使用を含めてその適応は広がりつつある。同様の症例に対して静脈脱血かつ静脈送血による体外循環で酸素化を保つV-V(veno-venous)ECMOを用いた報告も散見される6, 7)。V-V ECMOb日気食会報,73(3),2022
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