bac図1 頸部造影CTa:甲状腺に境界不明瞭な造影不良域および気管の狭小化を認めた.b:気道最狭窄部は4 mmであった(矢頭).c:甲状腺腫瘍は輪状甲状靭帯を含め,前頸部を広く覆っていた.(矢印:甲状軟骨下端)日気食会報,73(3),2022252も不利な条件になることを考慮した結果,同日,甲状腺摘出を含む喉頭全摘術を緊急で行う方針に至った。しかし,前頸部を全長に広く覆い,硬く厚みのある腫瘍のため,輪状甲状靭帯■刺・切開や外科的気管切開による気道確保は困難と考えられた。本状況を麻酔科医に報告し,気道確保方法について検討したところ,V-A ECMOの使用を提案され,麻酔科より心臓血管外科,医療工学技師へ協力依頼がなされた。また,ECMO導入過程でのヘパリン投与による腫瘍からの出血が懸念されることから,まずは麻酔科医により気管支ファイバースコープ下で気管挿管を試行する方針として,挿管不能であった場合に迅速にECMOが導入できるよう,手術室内に心臓血管外科医,臨床工学技師に待機してもらうこととした。手術経過:当科外来受診から一連の検査を経て3初診時所見:前頸部の腫脹を認め,甲状軟骨レベルから胸骨レベルまで全長に硬い腫瘤を触知した。頸胸部造影CT(図1)では甲状腺に境界不明瞭な造影不良域および気管内腔の狭窄を認め,最も狭窄しているところで4 mmであった。輪状軟骨に溶骨性変化も認めたため甲状腺癌もしくは声門下癌が疑われた。頸部超音波検査では頸部リンパ節の腫脹は認めなかった。喉頭ビデオ内視鏡(図2)では気管内腔に出血を伴う腫瘍性病変を認め,声帯開大制限はあるも可動性はあり,SpO2の低下はみられなかった。外来で■刺吸引細胞診を施行し,病理医に緊急で迅速診断を依頼したところ,同日中にCarci-noma,NOSとの診断結果を得ることができ,気管浸潤を伴う甲状腺癌の診断に至った。患者は持続的に喀血しており,腫瘍からの大量出血による致命的な状況であること,翌日が休日であり医療体制的に
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