日本気管食道科学会会報 第73巻3号
57/76

I.はじめにJ. Jpn. Bronchoesophagol. Soc.Vol. 73 No. 3, 2022症  例要旨 甲状腺癌はときに気管浸潤を生じ,気道確保には慎重を要する。気管浸潤を伴う甲状腺低分化癌に対し体外式膜型人工肺(extracorporeal membrane oxygenation:ECMO)を用いて気道確保を行った症例を経験したので報告する。症例は65歳男性。腫瘍は頸部前面を広く覆っており,気管浸潤を伴っていたため,気管挿管および外科的気管切開は困難と思われた。気道確保の方法について,各科協議した上でV-A(veno-arterial)ECMOを導入した。気管切開を行った後にECMOを離脱し,定型的に甲状腺・喉頭全摘を施行することができた。気管挿管や外科的気管切開が困難な症例で,悪性腫瘍による気道狭窄が疑われる場合および気道最狭窄部が正常径の50%未満となっている場合はECMOの使用が考慮される。本症例はいずれにも当てはまっており,V-A ECMOを導入して救命することができた。ECMOは多くの耳鼻咽喉科医にとって馴染みのない医療機器であるが,気道を扱う医療従事者としてECMOの特徴を理解することは,麻酔科医,集中治療医,心臓血管外科医と連携して治療を遂行する上で重要と考えられた。キーワード:甲状腺癌,ECMO,PCPS,気管浸潤,気道確保連絡先著者:〒359─8513 所沢市並木3─2 受 付 日:2021年11月30日採 択 日:2022年1月25日防衛医科大学校 耳鼻咽喉科学講座世永博也II.症  例 甲状腺癌はときに気管浸潤をきたし,気道狭窄を伴う症例では気道確保が問題となる。手術の際の気道確保の方法として意識下挿管,ラリンジアルマスク,高頻度ジェット換気(high frequency jet ven-tilation:HFJV)等の方法が考慮されるが1),より確実に換気補助を行う目的で,体外式膜型人工肺(extracorporeal membrane oxygenation:ECMO)を用いた報告もみられる2〜8)。今回われわれは気道1)防衛医科大学校 耳鼻咽喉科学講座251狭窄を伴う甲状腺低分化癌に対し,V-A(veno-arte-rial)ECMOによる気道確保,甲状腺・喉頭全摘を行い救命しえた1例を経験したので報告するとともに本症例における気道確保の方法について考察する。症 例:65歳,男性主 訴:前頸部腫脹,喀血既往歴:高血圧家族歴:特記事項なし生活歴:喫煙20本50年現病歴:20XX年12月より持続する喀血を自覚したため,20XX+1年2月に当院呼吸器内科を受診した。CTを撮像したところ甲状腺腫瘍および気管狭窄の所見がみられたため,同日中に当科緊急受診となった。日気食会報,73(3),2022pp.251─257世永博也1),宇野光祐1),廣川祥太郎1),荒木幸仁1),塩谷彰浩1)V-A ECMOを用いて気道確保を行った 甲状腺低分化癌気管浸潤の1例

元のページ  ../index.html#57

このブックを見る