図5 病理検査結果主細胞のモノクローナルな増生を認め,異所性副甲状腺腺腫と診断された.遺残をきたしたとの報告があり,副甲状腺手術の成功率は100%ではない。その原因として過剰な副甲状腺の存在,異所性副甲状腺の存在がある1)。異所性副甲状腺は原発性甲状腺機能亢進症患者の15.6%を占め,それぞれ縦隔4.9%,胸腺内8.4%,甲状腺内6.7%,食道後部または気管後部3.5%の頻度であったと報告されている2)。本症例のような縦隔内の異所性副甲状腺腺腫は,胸腺や脂肪組織に埋没して,術中に病変の同定に難渋することが多い3)。本症例では,術前の責任病変の同定に11C-Met-PET/CTが,加えて術中の副甲状腺腺腫同定にメチレンブルーを用いた生体染色が有用であった。 メチレンブルーはメトヘモグロビン血症の治療薬として本邦で保険適用があり,一般に使用される薬剤である。メチレンブルーによる副甲状腺腺腫同定法は1971年にDudleyにより報告された4)。メチレンブルーにより甲状腺は淡く染色され,正常副甲状腺は染色されず,副甲状腺腺腫は濃染される5)。また,副甲状腺癌でも染色されることが報告されている6)。投与開始後10〜30分で副甲状腺腺腫への取り込みは最大になり,いったん染色されれば30〜40分その状態が維持される7)。メチレンブルーにより副甲状腺腺腫98症例に対し77例で染色が得られ感度は78.6%であったとの報告がある8)が特異度については過去に報告がない。副甲状腺腺腫内の好酸性細胞がメチレンブルーを特異的に取り込むという報告や,機能亢進した副甲状腺腺腫の血流を反映して染色されるという報告がある9, 10)。日気食会報,73(3),2022248 メチレンブルー投与の副作用に尿青染,皮膚青染,胃液青染,悪心,嘔吐,見かけ上のSpO2の低下がある5)。本症例では尿青染,皮膚青染,胃液青染,見かけ上のSpO2の低下を認めたが,術後に悪心,嘔吐は認めなかった。メチレンブルー投与開始直後にSpO2は一時的に83%まで低下したが,投与開始5分以降は90%台後半で安定して推移した。術中の血液ガス分析ではPaO2/SaO2:96.7 mmHg/95%,194 mmHg/97.4%と適切な解析が可能であった。血液の青染により,吸光度を用いた測定方法であるSpO2は正確な測定ができず見かけ上SpO2は低下するものの実際の酸素運搬能力は低下せず,実際の麻酔管理上問題となることはなかった。 副甲状腺腺腫に対する検査として,超音波検査,MIBIシンチグラフィ,11C-Met-PET/CTがあげられる。過去の報告によれば,原発性副甲状腺機能亢進をきたす副甲状腺腺腫に対し,超音波検査は感度80%(95%信頼区間77〜83%),特異度77%(95%信頼区間71〜82%),MIBIシンチグラフィは感度84%(95%信頼区間80〜87%),特異度87%(95%信頼区間83〜91%)11),11C-Met-PET/CTは感度81%(95%信頼区間74〜86%)12)である。MIBIシンチグラフィは,主細胞よりもミトコンドリアの豊富な好酸性細胞の多い副甲状腺腺腫で強い集積を認めるので13〜16),主細胞主体の副甲状腺腺腫の本症例では集積を認めなかったと考えられる。11C-Met-PET/CTは11Cで標識されたメチオニンをトレー
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