表1 Plastic bronchitisの分類III.考 察使用しながらの除去操作となった。術前の画像検査では左主気管支のみの閉塞を予想していたが,実際には末梢気管支まで異物が充満していることがわかった。異物除去操作と換気操作を何度も繰り返しながら,左主気管支から末梢B10まで清掃できたことを最終的に確認し手術を終了とした。4時間超の手術となり終刀が深夜帯となったことや気道粘膜の浮腫も生じていたことから,抜管は行わず人工呼吸管理のまま集中治療室に帰室した。呼吸状態は安定していたため術後2日目に抜管し,術後6日目には自宅退院となった。その後3年の観察期間において呼吸症状の再燃なく経過している。 病理組織学的所見:気管内に充満する物質は乳白色〜淡緑色の軟性物質であり(図5),比較的長期間の体内遺残により浸軟した枝豆を第一に疑った。しかし病理学的検査では粘液や滲出物,壊死組織,好中球や好酸球などの炎症細胞浸潤からなる組織であり,外因性の異物を疑う所見はないという結果であった(図6(A),(B))。グロコット染色も実施したが真菌の存在は確認できなかった。最終的に鋳型気管支炎(Plastic bronchitis:PB)と診断した。 PBは1902年にBettmannが初めて報告した概念であり4, 5),一般には「気管支腔内に鋳型様の閉塞物(粘液栓)が形成されることによって気管支の閉塞を生じる疾患」とされる。1997年のSeearら6)による報告では,粘液栓の病理組織学的所見によりPBは大きく2種類に分別され,気管支喘息などの呼吸器・炎症性疾患を背景に好酸球などの炎症細胞浸潤を伴ったフィブリンを主体に粘液栓が形成されるinflammatory type(Type I)と,Fontan手術を代表とする心臓術後や心疾患を背景に細胞浸潤の乏しいムチンを主体とした粘液栓が形成される日気食会報,73(3),2022Seearらによる分類Type IType IIBroganらによる分類Group IGroup IIGroup III粘液栓の病理学的所見フィブリンが主体であり,好酸球などの炎症細胞の浸潤が著しいムチンが主体であり,炎症細胞の浸潤は乏しい患者の基礎疾患気管支喘息やアレルギー性疾患をもつもの先天性心疾患をもつものGroup IにもIIにも分類されないもの240acellular type(Type II)があるとされ,後者は全身性のリンパ灌流障害に起因するものと考えられている。それとは別にBroganらは患者の基礎疾患による3つの分類を定義しており5),喘息あるいはアレルギー性疾患の確定診断がついているものをGroup I,先天性心疾患があるものをGroup II,そのどちらにも分類されないものをGroup IIIとし,内訳はそれぞれ31/40/29%と報告している。Bro-ganらのGroup分類はSeearらのType分類とは必ずしも一致していないが,Group I・IIIはType I,Group IIはType IIの所見を呈することが多い(表1)。2010年以降,新型インフルエンザ感染症によるPB発症の報告が続いており,この理由としては,新型インフルエンザウイルスが感染早期に下気道〜肺胞に強い炎症を起こすことにより,SeearらのType Iに分類される粘液栓の形成が促されるためと考えられている7)。本報告では転院後にインフルエンザ迅速抗原検査を行ったが結果は陰性であった。経過から考察すると,前医で指摘された溶連菌感染やヒトニューモウイルス感染細気管支炎などの気道感染が先行した後に起きたBrogan分類のGroup IIIかつSeear分類のType Iであったといえる。 PBの発生率に関しては正確な報告がない。■島1)の報告した気道異物115例や,市丸ら2)が報告した気道異物170例にはPB患者は含まれていない。そもそもPBが気道異物として扱われておらず集計されていない可能性もあるが,気道異物疑いの症例に治療を行い,最終的にPBと診断される患者はかなり少ないことが推定される。しかし小児の場合,粘液栓を自然喀出しそのまま嚥下・消化して気付かれない可能性や,喀出した粘液栓が食物残渣の嘔吐と判断されている可能性があり,PBの発生頻度はもっと高いと考えられている8, 9)。
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