I.はじめに 受 付 日:2021年12月12日採 択 日:2022年2月7日J. Jpn. Bronchoesophagol. Soc.Vol. 73 No. 3, 2022症 例要旨 気道異物は救急疾患の一つであるが,鋳型気管支炎を耳鼻咽喉科で経験することは稀である。当施設で経験した1症例を報告する。症例は4歳の男児,生来健康でアレルギー性疾患の既往はなかった。X年8月に溶連菌感染症,9月にヒトニューモウイルス感染細気管支炎に罹患し軽快した。10月に再度発熱し肺炎の診断で入院となった。しかし症状が改善せず,画像検査の結果,ナッツ類による気道内異物が疑われ当科へ転院となった。緊急での気管支鏡検査を行い,粘液栓による鋳型気管支炎(Plastic bron-chitis:PB)の診断となった。PBは1902年に初めて報告された疾患である。本邦にて1992年から2020年までに報告されているType Iの小児PBに対して気管支鏡を用いて診断・治療した37例に加え,本症例を含めた計38例を検討した。10例で初回の気管支鏡処置だけでは完全に粘液栓を処置できなかった。1例で死亡,2例で心肺停止後の脳症の残存と不幸な転帰を■っていた。PBの診断・治療には気管支鏡検査が有用であり,処置中だけでなく処置後も慎重な呼吸状態の観察が必要である。キーワード:救急疾患,鋳型気管支炎,粘液栓,気管支異物,気管支鏡検査連絡先著者:〒104─0045 東京都中央区築地5─1─1 国立がん研究センター中央病院 頭頸部・食道内科伊東山 舞 気道異物は特に小児と高齢者で頻度が高い救急疾患である。■島1)は1976年から2007年までの32年間に喉頭・気管・気管支異物の摘出を行った115症例のうち,そのほとんどが2歳以下で特に1歳の乳幼児が全体の60%以上を占めており,また異物の種類に関してはその66.9%(77例)が豆類であったと報告している。全国114施設において20051)熊本大学病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科,2)国立がん研究センター中央病院 頭頸部・食道内科237年から2006年の間に診断・治療された気道異物170症例についてなされた検討においては2)その7割以上が2歳以下で,異物の種類はやはり豆類が多く占めていた。その内の1例は多臓器不全で死亡,4例は低酸素脳症が残存しており,約3%で不幸な転帰を■っている。2020年の日本小児耳鼻咽喉科学会では気道異物の取り扱いを耳鼻咽喉科医の立場で論じられたシンポジウムが開催されている。そこで提言された気管支鏡下異物除去術のリスクマネージメントとして,緊急対応が可能な診療体制および器具の整備,麻酔科医・小児科医との連携,および画像検査での術前診断,そして全身麻酔導入後はまず軟性ファイバースコープで異物の位置や状態を確認したのちに硬性気管支鏡を用いた異物摘出を行うこと,その後の気道管理などに関する留意点などが言及されている3)。日気食会報,73(3),2022pp.237─244伊東山 舞1), 2),宮丸 悟1),折田頼尚1)術前の画像診断にて気管支異物との鑑別が困難であった鋳型気管支炎の1例
元のページ ../index.html#43