日本気管食道科学会会報 第73巻3号
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図4 症例2表面隆起型病変(白矢頭と黒矢頭)の内視鏡所見a)WLI像.表面隆起型病変を観察した.b)ヨード染色像.大部分はヨードに濃染し,手前と奥の隆起部が不染となった.c)拡大内視鏡のFICE像.右にドット状のTypeB1血管,左にループ構造のないTypeB2血管を認めた(白矢頭).d)拡大内視鏡のFICE像.ドット状の異常血管と一部に伸張した血管を認めた(黒矢頭).%),喉頭(13.8%),下咽頭(8.76%)で多いとされる。発生頻度は頭頸部癌の2%とKlijanienkoら4)は報告しているが,日本頭頸部癌学会の2018年頭頸部悪性腫瘍全国登録報告書5)によると,本邦では下咽頭で0.3%(8症例/2814症例),頭頸部癌全体で0.2%(26症例/13149症例)の割合で認められた。われわれが渉猟し得た範囲では,下咽頭BSCCは本邦で17例(表1)6〜14)報告されており,本症例が18, 19例目であった。 報告のあった19症例のうち,術前にBSCCと診断できた症例は5例のみで,治療前の正診率は26%(5症例/19症例)と低い。これはBSCCの組織学的な特徴に起因している。BSCCはbasaloid cellからなるbasaloid componentと,SCCからなるsquamous cell componentの2つが混在していることが特徴1)である。SCCは異型上皮から上皮内癌,浸潤癌までさまざまな形態を取りうる。Basaloid cellは,上皮基底層近辺に充実性の腫瘍細胞が分葉状に増殖すること,N/C比の大きな細胞が密に増日気食会報,73(3),2022226生すること,核がクロマチンに富むこと,PAS染色陽性の硝子様物質やAlcian blueで青く染色される好塩基性粘液様物質を伴った腺腔構造を呈することが特徴である。これらのうち本疾患に特異的な所見であるbasaloid componentは上皮基底層近辺に存在するため,生検で表層のみが採取されるとBSCCではなくSCCと診断されることになる。反対にbasaloid cellのみ採取されれば腺様嚢胞癌のsolid typeや小細胞癌,神経内分泌癌と診断される可能性がある1)。今回の2症例はいずれも生検ではSCC成分のみ検出され,術前にはSCCと診断したが,切除検体からはbasaloid componentとsqua-mous cell componentの2つの混在を認め,BSCCと診断した。BSCCの診断には上皮に存在するSCCと上皮基底層近辺のbasaloid cellの両方が検出されることが必要であるため,治療前診断が通常よりも困難となる。 これまでの報告では,BSCCはSCCと比較して,頸部リンパ節転移や遠隔転移で高い悪性度を示して

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