日本気管食道科学会会報 第73巻3号
28/76

I.はじめにJ. Jpn. Bronchoesophagol. Soc.Vol. 73 No. 3, 2022症  例要旨 類基底細胞癌(basaloid squamous cell carcinoma:BSCC)は■平上皮癌(squa-mous cell carcinoma:SCC)の稀な一亜型であり,上皮基底層近辺に位置するbasaloid componentと上皮に位置するsquamous cell componentから構成されている。両成分が生検で検出されないと診断がつかず,術前に診断することは困難である。今回,内視鏡的咽喉頭手術(endoscopic laryngopharyngeal surgery:ELPS)で切除されたBSCCの2例を報告する。症例1:64歳男性,中咽頭癌治療後の経過観察中に施行した内視鏡検査で下咽頭に粘膜異常を認め,生検でSCCと診断された。ELPSで切除し,病理でBSCCと判断された。その後の短い経過観察では再発転移は認めなかった。症例2:67歳男性,胃癌治療後の内視鏡検査で下咽頭に粘膜異常を認め,生検でSCCと診断された。ELPSで切除したが,断端陽性のため術後放射線療法を施行した。その後は再発転移を認めていない。近年,内視鏡診断が発達し,表在癌が発見されることが増加してきた。ただしBSCCと診断がつくことは少ないため,粘膜下腫瘍様を呈する表在癌の場合は深層部での切除が重要である。今後術前診断をより正確にするためにはさらなる症例蓄積が必要と考える。キーワード:類基底細胞癌,下咽頭癌,ELPS,表在癌,経口的切除術連絡先著者:〒113─8519 東京都文京区湯島1─5─45 受 付 日:2021年10月27日採 択 日:2022年3月4日東京医科歯科大学 頭頸部外科河邊浩明東京医科歯科大学 1)頭頸部外科,2)消化管外科, 3)がん・感染症センター都立駒込病院 耳鼻咽喉科・頭頸部腫瘍外科 頭頸部の類基底細胞癌(basaloid squamous cell carcinoma:BSCC)は1986年にWainら1)によって初めてbasaloid-squamous carcinomaとして報告され,1991年には頭頸部領域における■平上皮癌(squamous cell carcinoma:SCC)の一亜型として222WHO分類に追加された2)。本疾患は上気道や上部消化管に好発し,食道癌取扱い規約には第8版(1992年)から上皮性悪性腫瘍の1つとして記載されているが,頭頸部領域での報告は少なく,頭頸部癌取扱い規約第6版(2018年)で初めて記載された。比較的新しい概念で病理診断が難しいため,下咽頭表在癌での報告はさらに少ない。 今回われわれは下咽頭原発のBSCCに対して内視鏡的咽喉頭手術(endoscopic laryngopharyngeal surgery:ELPS)を施行した2例を経験したので報告する。日気食会報,73(3),2022pp.222─230河邊浩明1),大野十央1),川田研郎2),高橋亮介1),立石優美子1), 岡田隆平1),有泉陽介1),杉本太郎3),朝蔭孝宏1)内視鏡的咽喉頭手術を施行した 下咽頭類基底細胞癌の2例

元のページ  ../index.html#28

このブックを見る