日本気管食道科学会会報 第73巻3号
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男女比は25:2と,男性で多く(1名は詳細不詳),平均年齢は57.46±17.88歳(20〜90歳)で60代〜70代に多い。組織学的分類として20例が高分化型(71%),3例が脱分化型,2例が粘液型,混在型が1例,円形細胞型(旧分類)の報告はなかった。リスクファクターとして飲酒・喫煙の関与は認めない8)。本症例も70歳男性で,8カ月前からの嚥下障害,体重減少を主訴に来院しており,組織型も高分化型と,既報の疫学的特徴と一致していた。脂肪肉腫の組織分類の中で,高分化型は予後良好な組織型とされており,5年生存率は100%との報告もある9)。しかし,再発例は多く,再発を繰り返す過程で,高分化型から予後不良な脱分化型へ変化する(dedifferentiation)ことが知られている。本症例は再手術して摘出した病理も高分化型であり脱分化はしていなかった。下咽頭脂肪肉腫の治療の第一選択は手術であり,頸部外切開,経口腔的切除があげら図6 病理標本6(a)はHE染色.大小不同の脂肪細胞像を呈し,脂肪芽細胞(矢印)も散在していた.免疫染色ではMDM2(6(b))とCDK4(6(c))が陽性.(a)(c)219れる。腫瘍茎が明瞭な場合は侵襲性を考慮すると,経口腔アプローチがよい。他の悪性腫瘍手術と同様に,頭頸部領域の場合は十分な切除マージンを確保することが時折困難である。Andreaら6)の報告によると下咽頭原発の脂肪肉腫28例中9例が局所再発を認め,そのうち2例が再手術の際に喉頭全摘術を施行している。このように喉頭全摘術や咽喉頭食道摘出も考慮されるが,高分化型脂肪肉腫の場合は低悪性度で予後も良好のため,一般的には過侵襲と考えられる。再発を繰り返し悪性度の高い脱分化型に変化した場合は,頸部外切開による部分切除や咽喉食摘も有用と考えられる。脱分化しない限りはリンパ節転移や遠隔転移することは稀であり,予防的な頸部リンパ節郭清術は推奨されていない6, 10)。放射線治療の有用性に関しては渉猟し得た限りでは報告はなかった。峰晴ら11)の下咽頭原発20例の報告では高分化型の再発率は50%,再発に至るまで平日気食会報,73(3),2022(b)

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