日本気管食道科学会会報 第73巻3号
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図5 初回手術時の摘出標本長径21 cm.黄色充実性でやや硬い.左が食道側,右が下咽頭側(腫瘍基部).図3 上部消化管内視鏡検査の際,嘔吐反射により口腔外まで腫瘍が脱出した.した。術後24カ月の局所所見で左梨状陥凹に黄色隆起性の腫瘤を認め(図7),CT検査で20 mm程度のlow density areaを認めたため,局所再発と考えた。再度全身麻酔下に経口的下咽頭腫瘍摘出術(TOVS)を施行した。摘出された腫瘍は長径18 mm(図8)であり,病理は同様の高分化型脂肪肉腫であった。再手術後15カ月経過するが,局所再発および頸部リンパ節,遠隔転移を疑う所見はない。 脂肪肉腫は軟部組織に発生する間葉系悪性腫瘍であり,好発部位は四肢,体幹,後腹膜である。2020年のWHO分類で脂肪肉腫の組織型分類では,高分化型(Well differentiated liposarcoma),脱分化型図4 上部消化管内視鏡検査施行後の喉頭ファイバースコープ所見腫瘍の基部が顕在化し下咽頭粘膜が食道方向へ引き込まれていた.IV.考  察日気食会報,73(3),2022218(Dedifferentiated liposarcoma),粘液型(Myxoid liposarcoma),多形型(Pleomorphic liposarcoma),粘液多形型(Myxoid pleomorphic liposarcoma)の5つに分類される2)。高分化型がもっとも頻度が高い(46%)3, 4)。肉眼的には脂肪肉腫では黄色分葉状で線維化が散見されるとされ,脂肪腫との肉眼的な鑑別点は,色調として黄色味がややくすんでいることと,やや硬度が高いことがあげられるが,鑑別困難なことが多い。組織学的所見としては大小不同を示す成熟脂肪細胞が充実性に増殖し,それらを区画するように線維性隔壁が走る。隔壁内や脂肪組織内には異形細胞が存在する。高分化型は12q13─15染色体の増幅を認め,その染色体内にMDM2とCDK4を有する。MDM2は腫瘍抑制因子p53の活動を抑制的に調節するタンパク質であり,CDK4は細胞周期のG1期に作用し細胞周期の制御を不能とするため,いずれも腫瘍増殖の作用をもたらしている。MDM2,CDK4は悪性腫瘍の7%,肉腫全体の3分の1で見られるが高分化型脂肪肉腫と脱分化型脂肪肉腫では90%以上で増幅され,診断に有用となる5)。本症例も腫瘍の色調は黄色でやや硬かった。また,大小不同を示す成熟脂肪細胞を認め,免疫染色でMDM2とCDK4陽性を認めたため,高分化型脂肪肉腫と診断した。下咽頭原発の脂肪肉腫による症状は数カ月にわたる体重減少や次第に増悪する嚥下障害,時には嗄声,上気道閉塞などがあげられる。稀だが,本症例のように口腔への腫瘍露出も報告されている6, 7)。Andreaら6)は2015年までにPubMedとOvidで報告された28例の下咽頭原発脂肪肉腫についてまとめている。下咽頭脂肪肉腫の

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