日本気管食道科学会会報 第73巻3号
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I.はじめに 受 付 日:2021年10月14日採 択 日:2022年1月13日J. Jpn. Bronchoesophagol. Soc.Vol. 73 No. 3, 2022症  例要旨 下咽頭原発の脂肪肉腫は稀である。今回われわれは下咽頭に基部を持ち,食道内に進展し嚥下障害をきたした巨大脂肪肉腫の症例を経験した。症例は70歳男性,5カ月前からの嚥下困難,体重減少を主訴に来院。初診時の喉頭ファイバースコープでは咽頭・喉頭に明らかな異常はなかったが,画像精査にて食道内に腫瘍を認めた。食道原発の腫瘍と考え,上部消化管内視鏡を依頼したところ,検査時の嘔吐反射で食道内腫瘍が口腔に脱出した。茎部は下咽頭梨状陥凹であり,下咽頭腫瘍が食道に落下陥入した状態と考えた。全身麻酔下に経口的下咽頭腫瘍摘出術(TOVS)を施行し長径21 cmの腫瘍を摘出した。病理は高分化型脂肪肉腫であった。術後24カ月で局所再発し再手術した。病理は同様であった。高分化型は予後良好な組織型とされているが,再発例は多く,再発を繰り返す過程で,高分化型から脱分化型へ変化(dedifferentiation)することが知られている。再手術後15カ月経過するが,局所再発および頸部リンパ節,遠隔転移を疑う所見はない。今後も局所を中心に定期的な経過観察を行う予定である。キーワード:脂肪肉腫,下咽頭,下咽頭悪性腫瘍,高分化型脂肪肉腫連絡先著者:〒371─8511 前橋市昭和町3─39─15 群馬大学医学部附属病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科川﨑裕正II.症例提示 脂肪肉腫は軟部組織に発生する間葉系の悪性腫瘍である。好発部位は四肢,後腹膜で,頭頸部領域原発は5〜15%程度との報告があり1),比較的稀である。今回われわれは,下咽頭原発で食道内に進展し嚥下障害をきたした巨大脂肪肉腫の症例を経験したので,文献的考察を加え報告する。症 例:70歳,男性主 訴:嚥下困難,体重減少1)群馬大学医学部附属病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科216日気食会報,73(3),2022pp.216─221川﨑裕正1),紫野正人1),近松一朗1)既往歴:特発性血小板増多症。近医血液内科よりハイドレア処方。 上部消化管内視鏡検査は30代以降未施行。生活歴:喫煙10本×50年,飲酒習慣なし現病歴:8カ月前から嚥下困難の自覚があり,徐々に症状が増悪してきたため近医耳鼻咽喉科を受診した。咽頭および喉頭に明らかな異常所見は認めなかったが,固形物の通過障害があり,5カ月間で15 kgの体重減少を認め,精査目的に当科紹介受診となった。初診時所見:身長165 cm,体重59.2 kg。嗄声や呼吸困難は認めなかった。咽頭・喉頭に明らかな腫瘍性病変やGERDを疑う発赤や浮腫状変化も認めなかった(図1)。色素水による嚥下内視鏡検査では兵頭スコア1点で水分の通過障害はなかった。画像所見:造影頸胸部CT検査で軽度造影効果のある長径約18 cmの軟部腫瘤陰影を食道内に認めた。同腫瘍はMRI検査ではT1で低信号,T2で高信号であった。明らかな頸部腫大リンパ節は認めな下咽頭から発生した巨大脂肪肉腫の1例

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