日本気管食道科学会会報 第73巻3号
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V.考  察表1 術後の音声所見の推移SFF(Hz)Jitter481815IV.術後経過図3 術後7日目CT所見術後7日目のCTでは創内に感染を疑わせる間質性浮腫と気腫像を認めた.した。ゴアテックス6×100×2 mmを5層に折りたたんで挿入した。術中の音声モニタリングではG1R1B0A0S0,MPT 8秒であった。術中の喉頭内視鏡所見で披裂部浮腫は認めなかったが患側声帯がやや浮腫状であったため,安全を優先し予防的に輪状甲状靭帯を切開しMelker緊急用輪状甲状膜切開用カテーテルセット®内のカテーテルチューブを挿入し,手術を終了した。 術後7日目ごろより創部より排膿を認めた。CT所見では感染を疑わせる間質性浮腫と気腫像を認めた(図3)。チューブを介しての感染と判断し,チューブを抜去し創部洗浄と抗菌薬投与を開始した。術後17日には感染は軽快し退院となった。排膿創部の細菌培養結果はMRSAであった。創部は感染していたが,喉頭内視鏡所見では声帯のレベル差は改善され,声門閉鎖が得られた。術後の音声所見の日気食会報,73(3),2022GRBAS初診時術中G3R3B3A1S1G1R1B0A0S0術後1カ月後G0R0B0A0S0術後3カ月後G0R0B0A0S0(GT逸脱後)GT:ゴアテックス推移を表1に示す。術後1カ月目の音声所見は,G0R0B0A0S0,MPT 18秒,SFF 109 Hz,Jitter係数0.75%,Shimmer係数3.38%,VHI 0/120に改善した。外来にて閉創目的に頻回に不良肉芽の除去を試みたが,肉芽消失と創部閉鎖傾向を認めなかった。術後3カ月目の外来受診時にゴアテックスが逸脱しておりそのまま引いて抜去した(図4(a),4(b),4(c))。抜去から1週間後には上皮化し,創部は閉鎖された。術後3カ月目ゴアテックス逸脱時のCT所見を図5(a)に,抜去後を図5(b)に示す。ゴアテックスは抜去され創部は上皮化した。ゴアテックス抜去後も窓軟骨は内方移動効果を保っていた。術後3カ月目ゴアテックス抜去後の音声所見は,G0R0B0A0S0,MPT 15秒,SFF 119 Hz,Jit-ter係数0.54%,Shimmer係数3.24%,VHI 0/120であり,音声所見の悪化を認めなかった(表1)。 TP1においてさまざまな挿入材料や挿入方法の工夫の報告があげられるが2〜6),合併症の報告も散見される。本症例ではその一つであるゴアテックスの逸脱という晩期合併症を経験した。TP1の挿入物の逸脱は過去にも報告されている7)。またTP1やAAの術後の合併症としては感染・膿瘍(10.7%),術後出血による気道狭窄(7.1%),術後気管切開術(3.6%),食道■孔(7.1%)などが起こりうる8)。特に頻度が高いのは術後の出血に起因する喉頭浮腫による気道狭窄である8)。そのため術中の止血操作と術後3〜4日の披裂部と声帯膜様部の腫脹に留意する必要がある9)。これらは高頻度の合併症であり,常に念頭に置きながらの厳重な術後管理と注意が必要である。重篤な合併症ではあるが,万が一起こった際には迅速な対応により救済可能である。 前述のごとく生体にとって異物である人工材料周係数(%)15.01─0.750.54128─109119212Shimmer係数(%)MPT(秒)22.79─3.383.24

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