I.はじめに 受 付 日:2021年12月23日採 択 日:2022年3月4日J. Jpn. Bronchoesophagol. Soc.Vol. 73 No. 3, 2022症 例要旨 各科領域で人工材料を用いる手術は数多い。しかし異物である人工材料周囲に感染が起こるとその制御に苦慮することが多い。今回われわれは甲状軟骨形成術1型を併施した披裂軟骨内転術の術後に創部感染をきたしゴアテックス逸脱を認めた1例を経験したため報告する。症例は51歳男性,201X年に甲状腺右葉切除術が施行された。術後よりの嗄声を主訴に201X+1年に当科を初診した。初診時の喉頭内視鏡所見で右声帯は固定しており術後性右反回神経麻痺の診断となった。音声改善手術が施行された。術中に声帯浮腫による気道の狭小化を認めており,予防的に輪状甲状靭帯切開を施行し気道チューブを挿入して手術を終了した。術後7日目頃に創部から排膿を認め,チューブを抜去し創洗浄を開始した。術後17日目に感染は軽快したが創部は肉芽が充満し閉創傾向を認めなかった。外来で頻回の肉芽除去を施行した。術後3カ月目の外来受診時に創部からゴアテックスが逸脱しており抜去した。抜去後も音声の悪化を認めなかった。抜去の1週間後には上皮化し閉創した。感染創は異物である人工材料を除去しないと閉創しないことが再認識された。ゴアテックス逸脱抜去後も音声の悪化を認めなかった。キーワード:ゴアテックス,披裂軟骨内転術,甲状軟骨形成術1型連絡先著者:〒173─8610 東京都板橋区大谷口上町30─1日本大学医学部 耳鼻咽喉・頭頸部外科学 分野柴崎知生II.症 例 各科領域において人工材料を用いる手術は数多い。しかし,生体にとって異物である人工材料周囲に感染が起こると,その制御には苦慮することも多い。整形外科領域では人工関節置換術後の感染は治療に難渋することが多く,二期的な再手術を行う前にインプラントの抜去と持続洗浄,抗菌薬含有セメ1)日本大学医学部 耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野210ントビーズ留置などを行う1)。今回われわれは甲状軟骨形成術1型を併施した披裂軟骨内転術(aryte-noid adduction+type 1 thyroplasty:以下AA+TP1と記す)の術後に創部感染をきたし,ゴアテックス逸脱を認めた1例を経験したため報告する。症 例:51歳,男性主 訴:嗄声現病歴:201X年に他科にて甲状腺腫に対して甲状腺右葉切除術が施行された。術後より嗄声を認め,201X+1年に当科を初診した。既往歴:硬膜動静脈瘻,高血圧喫煙歴:なし飲酒歴:機会飲酒日気食会報,73(3),2022pp.210─215柴崎知生1),中村一博1),長谷川央1),永田善之1),黄田忠義1), 馬場剛士1),大島猛史1)甲状軟骨形成術1型を併施した披裂軟骨内転術後に創部感染をきたしゴアテックス逸脱を認めた1例
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