日本気管食道科学会会報 第73巻2号
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(石井 健先生,特別講演1)では,各国のワクチン開発に関するさまざまな情報をいただきました。私たちは,ワクチンを接種することしか関与できていませんが,これらのワクチン開発状況やNewsweek誌の評価では,金メダルはビオンテック・ファイザー(独・米),銀メダル オックスフォード・アストラゼネカ(英・英),銅メダル モデルナ・NIH(米・米)であったこと,日本はこれらのワクチン開発には遅れてしまいましたが,上記のものとは異なるアプローチでその後研究が進んでいることも知ることができました。mRNAワクチンの開発経緯,シュードウリジン・脂質ナノ粒子の開発,mRNAワクチンは生産速度が速く,免疫誘導能力が高いこと,その安全性についても興味深く拝聴しました。さらにワクチンは感染症を越え,多くの疾患治療・予防まで変革してゆく可能性についてお話いただけました。ʻ破壊的ʼイノベーションという文字通りすさまじい医療の刷新が今後生じると感じました。またCOVID-19パンデミックが起点となり,新しい医療の未来像が拓けてゆく明るい兆しを感じることができました。 塩谷彰浩理事長による理事長講演「日本気管食道科学会の現状と今後」では,本学会が耳鼻咽喉科,消化器外科,呼吸器外科・内科,形成外科,放射線科,麻酔科など多科協調的であり,学際的に統合して研究し,従来の診療科の枠を越えてより良い医療への還元を目指して研鑽を積んでいる組織であることが確認されました。この点は大変重要であり,本学会では多くの診療科が情報を共有し,診療に取り組む原点を再認識いたしました。本学会の会員数は耳鼻咽喉科2131名,外科306名,内科93名,放射線科2名,形成外科8名,小児科2名,麻酔科3名,その他1名です。近年会員数が減少傾向にあり,会員数を増加させる方略として,学会誌を年6回発行,奨励賞授与,用語集・マニュアル発行/改訂(外科的気道確保マニュアル,気道食道異物摘出マニュアル),研究課題公募,ホームページリニューアル,会報の電子ジャーナル化,専門医制度などの多くの取り組みが報告されました。また専門医に関しては,学会認定サブスペシャルティ領域として今後歩んでゆく方向性を示していただきました。 基礎研究,臨床研究については,ワークショップ,学会臨床研究発表会で,最先端研究内容,多施設臨床研究データが示されました。また再生医療,日気食会報,73(2),2022196医薬品・医療機器開発のワークショップでは各分野での再生医療を用いた治療戦略,医薬品・機器開発の現状が示され,一般臨床へあと少しのところまできており,導入が楽しみになる内容でした。 シンポジウム2 Immuno-oncology時代のがん治療では,免疫チェックポイント阻害薬を中心話題として,頭頸部癌,肺癌での取り組み,周術期ICI治療について御講演がありました。免疫チェックポイント阻害薬は,irAE対策が進みリアルワールドデータも積み上がってきておりその重要性を感じさせる内容でした。保険適用されたがんゲノム医療についてもシンポジウム3にて取り上げられており,気管食道領域では最も進んでいるのは肺癌領域であり,頭頸部領域では甲状腺癌,唾液腺癌が対象になりやすいが,エキスパートパネル結果から保険診療,治験,申出療養などへ■りつけず治療を受けられる例がまだ少ないことが報告されました。このがんゲノム医療を機能させるためには,ドライバー遺伝子だけでなくエピゲノム機構や転写機構に着目した研究,臨床応用が重要であることを感じました。 パネルディスカッションでは,反回神経麻痺の予防や治療,嚥下障害のチーム医療,嚥下性肺炎のリスクと予防,フレイルとがん薬物療法,高齢者の呼吸栄養リハビリテーションが取り上げられました。いずれも治療関連合併症,加齢変化,併存症に対する専門施設からのご報告でディスカッションが充実しており,自施設でもすぐに取り入れたくなる内容でした。反回神経麻痺のセッションでは,ビデオを多用してわかりやすく御講演いただき大いに参考になりました。また嚥下障害に対するチーム医療では,医育機関・民間病院でのそれぞれの特徴を活かした組織作り・体制,食道外科やCOVID-19感染下での重点医療機関での取り組みが報告されました。医療コスト,学術的な評価も取り入れ,チームが活躍できる場を作ることが重要であると認識いたしました。高齢者では呼吸栄養リハビリテーションがQOL向上に重要であること,摂食嚥下,フレイルが疾患予後に大きく関係していることが明らかにされました。頭頸部領域では食道や呼吸器領域と比較して遅れていますが,G8,PNIなどを用いた高齢者機能スクリーニング,摂食嚥下の治療前評価が今後も増加してゆく高齢者の治療に重要であることがよくわかる内容でした。 画像やAI,ビッグデータを用いた研究や臨床へ

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