J. Jpn. Bronchoesophagol. Soc.Vol. 73 No. 2, 2022パネルディスカッション4フレイルとがん薬物療法第72回日本気管食道科学会総会ならびに学術講演会予稿集より再録 内閣府の高齢社会白書によると,令和元年(2019年)の65歳以上人口は3,589万人となり総人口に占める割合(高齢化率)は28.4%に達しており,75歳以上人口が総人口に占める割合も14.7%(1,849万人)と増加傾向にある。高齢者の治療介入にあたっては,フレイルの三要素である身体的,精神的,社会的な問題や脆弱性を無視できず,原疾患とあわせて栄養状態,併存症,精神状態,家族サポートなどすべての背景因子に対する評価が必要となる。さらに,高齢者はストレスに対する予備能も個人差が大きく,がん薬物療法をおこなうことによって逆にフレイル状態に陥ってしまうというリスクも考慮しなければならない。高齢者の客観的評価の指標として高齢者総合的機能評価(CGA)が代表的であるが,腫瘍領域においても国際老年腫瘍学会はGA(geriatric assessment)として実施を推奨して1)兵庫県立がんセンター 頭頸部外科147いる。GAにおいて広く用いられているのはGeriat-ric 8(G8)であり,栄養状態を評価するMNAから抽出した7項目に年齢を加えた8項目からなるスクリーニングツールである。GAを用いる利点として,その後の治療効果予測,予後予測,副作用発現予測につながり,治療方針決定に寄与する点があげられている。日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)では,標準治療の忍容性によって高齢がん患者をfitとunfitに分類している。さらにunfitを,負担を軽減することで治療が可能なvulnerableと,治療適応外のfrailに分けている。日本老年医学会のfrailの考え方(しかるべき介入により再び健常な状態に戻るという可逆性を包含)とは若干異なるが,vulnerableという概念に相当する高齢患者の薬物治療をどうするかが臨床的に最も悩み多いところであり,マネジメントの重要性も高いと思われる。日気食会報,73(2),2022高齢者のフレイルとがん薬物療法岩江信法1)
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