日本気管食道科学会会報 第73巻1号
37/69

I.はじめにJ. Jpn. Bronchoesophagol. Soc.Vol. 73 No. 1, 2022症  例要旨 神経線維腫症1型(neurofibromatosis; NF-1)はまれに動脈狭窄・動脈瘤・動静脈瘻・動静脈奇形などの血管病変を合併すると言われている。血管脆弱性に起因すると思われるこうした血管病変は,発生箇所や条件によっては致命的な合併症を引き起こす。今回,NF-1に合併した胸肩峰動脈および上行咽頭動脈破裂に対して,緊急気管切開・血管内治療で救命しえた症例を経験した。同時に2カ所からの動脈性出血を起こし救命しえた例はまれであり,文献的考察を加えて報告する。症例はNF-1の61歳の女性,軽度の頸部への刺激後より急激な腫脹が出現したため受診した。気道狭窄に対して緊急気管切開を行い,創部からの著しい出血を認めたため出血源検索で施行した造影CTで右頸部に巨大血腫および造影剤の漏出を認めた。動脈破裂による急激な頸部腫脹を疑い,血管造影を施行し出血源に対してtranscatheter arterial embolization(TAE)を行い,止血を得られ救命することができた。NF-1症例で,頸部からの出血をきたした場合には緊急での気道確保が必要となると考えられ,われわれ耳鼻咽喉科・頭頸部外科医もこうした合併症について熟知しておく必要があると考えられる。キーワード:神経線維腫症1型,頸部腫脹,動脈破裂,経カテーテル動脈塞栓術連絡先著者:〒918─8501 福井市月見2─4─1 受 付 日:2021年4月15日採 択 日:2021年6月10日福井赤十字病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科堤内俊喜II.症  例 神経線維腫症1型(neurofibromatosis type 1; NF-1)は常染色体優性遺伝疾患で,多発性神経線維腫やカフェオレ斑を特徴とし,骨病変・眼病変・脊髄腫瘍など多彩な病変を呈する。その中でも,まれに動脈狭窄・動脈瘤・動静脈瘻・動静脈奇形などの血管病変を合併すると言われている。今回,NF-1に合併した胸肩峰動脈および上行咽頭動脈破1)福井赤十字病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科,2)福井大学医学部附属病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科21裂に対して,緊急気管切開・血管内治療で救命しえた症例を経験した。同時に2カ所からの動脈性出血を起こし救命しえた例はまれであり,文献的考察を加えて報告する。 症 例:61歳女性 主 訴:右頸部腫脹 既往歴:NF-1,Chiari奇形に伴う環軸関節亜脱臼で頸椎プレート挿入後(時期不明) 現病歴:X年2月13日20時ごろ右の肩こりに対して夫が肩を揉んで叩いた直後より■痛・急激な腫脹が出現した。21時ごろ前医を受診し,単純CTで右頸部血腫を認めた。精査中の30分ほどでも頸部の腫脹増悪を認め,当院救急救命科および耳鼻咽日気食会報,73(1),2022pp.21─28堤内俊喜1), 2),意元義政2),成田憲彦2),藤枝重治2)複数の動脈破裂から急激な頸部腫脹と気道狭窄をきたし救命しえた神経線維腫症の1症例

元のページ  ../index.html#37

このブックを見る